「部下の個性にあった指導」をするべきか
「幸本さん、部下の指導について相談したいのですが。部下指導で一番大切なのは、その部下の考えや性格に合った指導をすることですよね?」
顧問先の企業や研修の休み時間などで、よくこのような質問を受けます。
「人はそれぞれ考え方や個性が違うのだから、一律の指導ではダメだ。その人に合った個別の指導をしなければ。」
という考え方です。
これに対する私の回答は
「2割YES、8割NO」
です。
100%ノーとまでは言えないけれど、どちらかといえばノー、というニュアンスでしょうか。
部下の性格に合った指導、というのは重要で必須のように思えます。
にも関わらず、なぜどちらかといえばノー=一番大切とまでは言えない、のでしょうか。
なぜならば、そのような人は部下の指導の「基本」を一足飛びして、いきなり個別対応という「応用」をしようとしているケースが多いからです。
部下指導、あるいはそれ以前の「上司としての基本の業務」とはなんでしょうか。
・部下の仕事の担当を割り振り、確定させる。
・部下の仕事の進捗や成果をチェックし、指導する。
・部下の指導や育成、教育の計画を立てて、実行する。
こういった基本をきっちりしているでしょうか?
たとえばある上司が以下のように考えているとします。
「部下のAさんに新しい仕事を割り振ったけど露骨に嫌な顔をした。もっと仕事に責任感を持ってやってもらわなければならない。Aさんにはそのための個別の指導をしないと」
しかしもしこれが、その上司は部下のAさんの抱えている業務の量や内容を理解せず、残業続きのAさんに「はい、これもやっといて」と新しい仕事を押し付けているとしたらどうでしょう。
このときに大切なのは「Aさんの性格に合った個別の指導」ではなく、まず「上司がAさんの業務量や範囲を正確に把握すること」です。
その基本を飛ばして「一人ひとりにきめ細かい指導を」という応用をしようとしても効果が出ません。
「部下の個性にあった指導」は、基本ができた上でのいわば「応用」です。
応用の前に基礎、すなわちどんな部下であっても共通の部分、「部下の業務範囲を定めて業務量を把握する」などの土台を固めることが先決です。
その上で、初めて「彼女は細かい数値のチェックが得意だ、だから~の仕事を特に割り振ろう」などと「個性に応じた指導」をすべきなのです。
成果を出したいときは「行動」に焦点を当てる
「今期の売上が目標に届かない...」
「従業員にやる気がない...」
そんな状況は誰でも辛いものです。
そして打開しようといろいろなことを考えます。
とはいえもちろんそれが毎回うまくいくわけではありません。
商売には「自分でどうにかできる要素」と「自分ではどうにもできない要素」があります。
特に「自分ではどうにもできない要素」の影響が強いと、いくら努力をしても、成果が出ない...ということがあります。
辛い状況というのは、その「自分ではどうにもできない要素」に振り回されると特に発生します。
「売上」はお客様が買ってくれて発生するものですから、100%自分でコントロールできません。
「従業員のやる気」も、従業員の心の中のことですから、こちらも経営者のあなたが100%コントロールできません。
そんな状況では、自分ではどうにもできない「成果」よりも、「行動」に焦点を当ててみましょう。
「売上を(必ず)上げる」ことは保証できません。
しかし、「ここ一年間で購入がない既存顧客に再アプローチしよう!」という行動は、100%可能です。
「やる気を出せ!」と言うだけで、従業員がやる気を出す保証はできません。
しかし、「商材Aを買ったお客様は商材Bも必要とする可能性が高いから、電話をかけて紹介しよう!」という行動は、100%可能です。
結果は100%保証できません。しかし、その結果を導くための「行動」は無茶なものでない限り100%実行することができます。
結果が出なくて不安だ...というときは、不確定な結果ではなく、必ず実行できる「行動」にフォーカスしましょう。
形容詞を使わずに指示や説明ができますか
ある新聞記者の方のお話を聞いたとき、こんなことをおっしゃっていました。
「私たちは上司から『形容詞を使わずに記事を書け』と厳しく指導されます」
※この場合、「形容詞」は厳密な用語としてではなく、何かを修飾するための言葉、くらいの意味でとらえてください。
形容詞を使わない、とはどういうことでしょうか。
新聞は「事実」を伝えることが何よりも重要です。
そのため、同じ記事が読む人によって解釈が異なってはならないのです。
たとえば「きれいな花が咲いた」という文章はどうでしょう。
何をもってして「きれい」か、というのは人によって解釈が異なります。
だから、新聞記事の書き方としては不適切です。
「○月○日、~の花が咲き、赤い5枚の花びらが開いた」
ならば「事実」なので適切です。
これは、仕事上の言葉の使い方でも大切なポイントです。
形容詞というのは「感じ方」なので、言ってみればその人の主観、どう思ったかに過ぎません。
裏を返すと、事実かどうかに関係なく、「私はこう思ったからこうなんだ」と言えてしまうのが形容詞なのです。
例として「画期的な」「注目を集める」「最先端の」などの言葉です。
あなたもつい使ってしまうのではないでしょうか?
もちろんこれらの言葉が絶対にNG、というわけではありません。
しかし、商談の場などでこれらの言葉を使われても、「で、具体的にどうなの?」「その証拠は?」と思われるだけで、それが事実として心に響くことはないでしょう。
仕事の指示なども同様です。
「きれいに掃除しろ」と言っても、「きれい」の基準は人によって異なります。
「モップを洗剤に浸し、床を2往復しろ」ならば、「事実」の指示です。
「画期的な商品を開発しろ」も、何が画期的かは主観の問題です。
「従来の機能を維持したまま5g軽量化しろ」であれば、具体的です。
「形容詞を使わない」を発言や文章のテーマにしてみると、あなたの伝える力はより向上します。
比較する対象によって印象は変る
このような文章を目にしました。
「その喫茶店の店主はじっくり時間をかけてコーヒーを抽出した。
そして差し出されたコーヒーはわずか指3本分だった。」
さて、あなたの指を実際に見てください。
指3本分、というのはどれくらいの量でしょうか?
スターバックスのコーヒーなどと比べたら少ないですが、喫茶店のコーヒーとしてなら
「まあ、それくらいの量かな」
と思いますよね。
ところが「わずか指3本分...」という表現を目にすると、反射的に「そんなに少ないのか!」という印象を受けます。
このようにモノの量、サイズなどは「比較対象がなにか」によって大きく印象が変化しますし、受け止め方も変わります。
たとえば「500トンの水」と言われても「多いね」くらいでピンと来ませんが、「小学校のプール一杯の水」と言われればわかりやすくなります。
数値を強調したい場合は、比較対象をうまく用いるとよいでしょう。
つっこまれる余地を残しておきましょう
私は今年で39歳です。
コンサルタント・研修講師としては若い部類です。
一般にこういった職業は、年齢や経験がものを言うのが一般的です。
そのため、若いということは弱点であるとみなされがちです。
しかし反対にメリットもあります。
それは、「お客様から注文やダメ出しをしてもらいやすい」こと。
たとえばあなたの取引先の担当者が、あなたより20歳も年上だったらどうでしょうか?
もちろんビジネスの世界では誰もが対等ですから、年齢は関係ありません。
とはいうものの、20歳も年上の人に「これではダメだ」「もっとこうやってくれ」などといった注文やダメ出しはしづらいものではないでしょうか。
それに対し、私は若いので、取引において私が年下になることがほとんどです。
発注側でもクライアント側でも、私に指示や依頼をしやすいのではないか、と感じています。
相手につっこまれる余地を残すのは、年齢だけではありません。
たとえばあなたが機械部品のBtoBの営業担当者だとしましょう。
もしもあなたが一分のスキもない、完璧な商品説明やプレゼンをしたらどうでしょうか。
もちろん知識やプレゼン等、それ自体はいいことなのですが、相手は
「質問があるけど、こんなことも知らないのかとバカにされたらどうしよう」
「こちらに知識がないのをいいことに、すごく値段をつり上げてくるかもしれない」
と警戒し、商談が行き詰まってしまうかもしれません。
そのとき、本当は商品知識が完璧でも、あえてこんな風に言ってみてはどうでしょう。
「この分野って複雑で難しいですよね。私も最近ようやくわかってきましたよ。実は今でもたまにわからないことがあるんですけど、そのときは会社にすぐ電話して確認するんで、大丈夫ですよ!」
このように「私もあなたも大差ないんですよ」と相手に安心感を与えたほうが、むしろ相手も心を開きやすいのではないでしょうか。
(もちろん、この人は素人なのでは?と疑われるレベルではダメですが...)
完璧に振る舞おうとすると、かえって「とっつきにくい人」で終わる可能性があります。
年齢は変えられませんが、態度や発言でつっこまれる余地を残しておくことは大事です。
素人のお客様にきちんと「良さの裏付け」を提供しよう
先日、いつもの美容院よりもちょっと値段の高い美容院に行きました。
特に不満はなかったのですが、逆に満足もありませんでした。
髪の仕上がりも普通ですし、ここが良い!というところもなく、これだったらいつもの美容院で十分なのでは...と感じました。
しかし、もしかしたら私は「素人」なので、その店のカットの技術や細かい仕上げの良さは素晴らしいのにその違いに気付いていないだけ...かもしれません。
だとしたら、非常にもったいないことです。
ほとんどのお客様は(企業であろうと個人であろうと)素人です。
「ここが良いんです」「ヨソではこれはできません」と言ってくれないと、その良さはわかりません。
「わかる人にはわかる!」「黙ってワザで勝負!」「良さをいちいちアピールしないのが美徳!」という気持ちもわからなくもありません。
しかし、そういった良さや違いが「わからない」ままになり、「なんだ、大したことないな」と思われてしまうのは非常にもったいないことです。
「良さ」「優れた点」「他との違い」は一般のお客様にはわかりにくいものです。
だからわかりやすく「ここが良いんですよ」と教えてあげましょう。
営業は「説明」してはいけない
先日、ある店頭で商品のメガネを見ていたときのこと。
私が店頭を見始めると、店員さんが話しかけてきました。
「お客様、このフレームは~で、通常○万円が当店だと○万円なんですよ。他にもブランド○○は○○円、ブランド××は××円、そしてこちらは…」
こんな体験はあなたにもあるのではないでしょうか。
この段階では、私はメガネを見始めたばかりです。
どの程度興味があるのか、たとえば
・すでに買う気がある
・買うことを検討していて詳しく聞きたい
・なんとなく覗いてみただけ
...以上のどの状態か、店員さんは把握していたでしょうか?
もちろんしていません。そして「お客様だ、お得感を説明してアピールしなきゃ」となってしまったのです。
営業で重要なのは、まずそもそも「聞いてもらえる状態を作る」ことです。
簡単に「共感」と言ってもいいでしょう。
通常、買い手側は「押し売りされたらどうしよう」「高いのを買わされないようにしないと」という警戒感があります。
そこで性能やお得さをアピールしても「いや、だまされないぞ」とガードが固くなるだけです。
営業は、まずは「この人の言うことなら信頼できるな」という共感を得るところから始めましょう。